[book]町田康『告白』

 

告白 (中公文庫)

告白 (中公文庫)

 

今頃ようやくもようやく、という感じだけれど、町田康『告白』を読んだ。『ギケイキ』は読んでいたから順番が逆という感じがする。

本文842ページをあっという間に読むことができる文体の妙味、物語のおもしろさ…というのは色々な人から聞いていて、実際その通りだった。

熊太郎への「あかんではないか」というツッコミは、作者の声とも世間の声とも亡霊となった熊太郎自身の声ともとれる。思弁的で思った通りのことが言葉にならない熊太郎は生涯をずっとツッコミ(という理解者)不在のままボケ倒して十人殺しに至ってしまったともいえて、この「あかんではないか」は鎮魂の言葉にも思えてくる。

熊太郎の宿敵である熊次郎は史実通りの名前だけれど、熊太郎・熊次郎と名前が類似しているのがおのおののエゴの反転のようで興味深い。名前の類似から逆算する形で、熊次郎と瓜二つの「森の小鬼」という熊太郎の影のようなキャラクターが生まれたのだろうか。