[book]川上未映子『シャンデリア』

 シャンデリア (Kindle Single)

読み終わって思わず泣いてしまう、と同時にあまりに見事でため息が出るような短編。

お金という、冗談のようなものが遠因となって引き離されてしまった主人公と母。母が亡くなってから冗談みたいに転がり込んできて、増え続ける大金。主人公はトム・フォード、スリー、ナーズ、ドルチェ&ガッバーナ、シャネル、フェンディといったブランドが綺羅星のように散りばめられ、シャンデリアが頭上に輝くデパートという悪い冗談の中で生かされ続けている。主人公がデパートで毎日のように高級ブランドで買い物を続けるのは、冗談の中で生き続けることへの無気力な復讐のようでも自傷のようでもある。

(しかしこのブランド名の2010年代的なチョイス、買い物描写が素晴らしく、リアルに買い物しまくって、その楽しみも倦怠も経験した人のそれという感じ)

死んでしまった母親、全身にハイブランドをまとった老婆、タクシー運転手の母親、この小説には3人の母親が出てくる。老婆は自分の母親をまるきり反転したような存在である。タクシー運転手と母親の関係は失われてしまった憧憬そのものだ。

主人公の母に対する気持ちは一言も書かれていないにもかかわらず、この小説は母を失うという不条理に引きちぎれそうな姿、母を恋い慕い続ける姿を描いていて、私はやはり泣いてしまう。